岩波科学ライブラリーの『嗅覚はどう進化してきたか』(新村芳人, 2018)を読みました。
香りの歴史、嗅覚の仕組み、ヒトやほかの生き物の嗅覚事情が知ることのできる本でした。
全部で6章となっております。
今回は、それぞれの章の紹介をしていきます。
第1章 魅惑の香り
第1章は匂いの歴史について書かれています。クレオパトラは香りの使い手の名手だった、室町時代中期、東山文化では茶道・華道と並んで、香道が誕生したなど、昔の海外と日本では香りがどのように使われてきたのかが書かれています。
錬金術はアラビア語でal-kimiyaと言い、alはアラビア語の冠詞で英語のtheに相当し、kimiyaはギリシア語のkhemiaに由来し、英語で「化学」という意味のchemistryになったそうです。また、al-kimiyaは錬金術(akchemy)として英語に伝わっています。
アルコール(alcohol)もアラビア語のal-khwlから由来しており、khwlは殺菌剤や眉墨に使われていた粉末khwlがさらさらしていることから、水よりもさらさらしているアルコールをal-khwlと言うようになったそうです。
言葉の由来って面白いですよね。
第2章 匂いを持つ分子
匂いは匂いを感じさせる分子が鼻にある受容体にくっついて感じるそうです。
第2章ではどんな分子が匂いを感じさせるのかを解説しています。
匂い分子の中で最も小さいのは分子量17のアンモニアで、大きい分子の限界は分子量約350らしいです。
あと、二酸化炭素ってヒトには無臭なんですけど、昆虫や哺乳類の多くは二酸化炭素の匂いを感じることができるみたいです。
特に蚊は、二酸化炭素濃度のわずかな変化を感知して獲物を見つけているらしいです。
マウスも通常の空気と二酸化炭素濃度がその2倍の空気を区別できるみたい。
へー(゚д゚)
第3章 匂いを感じるしくみ
第3章は匂い分子が鼻にある受容体にくっついて、その情報が脳までどのように届くのか解説しています。
解説のときに図が1つしかないので、初めて嗅覚の本を読んだり勉強する人にとっては用語がたくさん出てきてちょっと難しく感じるかもしれません。
知っている人ならわかりやすい説明かなと思います。
嗅覚受容体は1991年にアメリカのリンダ・バックとリチャード・アクセルがラットの嗅上皮から初めて発見しました。彼らは2004年にこの業績でノーベル生理学・医学賞を受賞したそうです。
嗅覚についてわかってきたのって最近なんですねΣ(・ω・ノ)ノ!
嫌な臭いという感覚は獲得するものがあるとか文化による匂いの趣向の差など、人を対象にした研究がいくつか載っていて面白かったです。
第4章 生き物たちの匂い世界
第4章では人以外の動物の嗅覚はどうなっているの?という点に焦点を当てた話になっています。
ヒトは嗅覚受容体は約400種類持っているそうです。イヌはそれよりも多く、約800種類です。
それに対して、アフリカゾウは約2000種類も嗅覚受容体を持っているとのこと!
このことは著者の調べでは少なくとも世界40ヶ国、22の言語でインターネットのニュースになったらしいです。よく調べたね…
他にもイヌはヒトよりも本当に嗅覚が優れているの?とかイルカは嗅覚が退化しているし、味覚も塩味しか感じないという話がありました。
私はこの章が一番面白く感じました!
第5章 遺伝子とゲノムの進化
第5章は嗅覚の話から少しだけ離れて、遺伝子とゲノムが進化の過程でどのように変化していったのかについて触れています。
進化の過程で、遺伝子の数は増えていくこともあれば、減っていくこともあるらしいです。
そんな突然変異して機能しなくなった遺伝子を偽遺伝子と呼ぶそうです。
ヒトの嗅覚受容体遺伝子にも偽遺伝子はあるらしく、機能する嗅覚受容体遺伝子が398個に対して機能しない嗅覚受容体遺伝子は442個もあるとのこと。
アフリカゾウにいたっては機能している嗅覚受容体遺伝子は1948個ですが、機能していない数は2230個もあるらしいです。
めっちゃ減ってるやん。
第6章 鼻の良いサル、鼻の悪いサル
最後の章はヒトを含めたサルの嗅覚はどうなのかということに触れています。
ヒトは火を使う料理をすることで嗅覚の重要性が増したそうです。
まとめ
本書は
・五感の仕組み、とくに嗅覚について知りたい!
・ヒトの嗅覚の実験に興味がある!
・ゾウやイヌが好きなので動物についてもっと知りたい!
という方にオススメです。
18/12/07追記
本書の内容の一部を参考に記事を書いてみました。
「金属を触ったあとってどうして匂うの?」
「嫌な匂いは経験から獲得していくらしい」
「「イヌの嗅覚はヒトの1億倍」ってどこまでホントなの?ヒトも匂いの道をたどれる!?」